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どうしてデータ化なのか?

子どもの成長を見守る母子健康手帳

 私たちの人生は、生まれ落ち、学び、パートナーと出会い、子どもを妊娠・出産・子育てし、老いて朽ちていく、その人のためだけに書かれた切れ目のない書物とも言えましょう。しかし、私たちが受けるサービスは、妊娠・出産・3歳児健診など医療機関や保健機関等が提供するサービスの切れ目で完結してしまいがちです。平成24年から、母子健康手帳に18歳までの成長発育曲線が記入できるようになりました。今や母子健康手帳は、学校を含む関係機関が切れ目のない支援を行うことを可能とするツールであり、なによりも親と子がともに人生を振り返り、子どもが未来の親となり子育てすることを支援するツールなのです。

佐藤 拓代

佐藤 拓代

地方独立行政法人大阪府立病院機構
大阪府立母子保健総合医療センター
母子保健情報センター長

外国人にも優しい

 日本国内には日本語を母語としない外国人が多く暮らしています。また、近年の公立学校においては、日本語指導が必要な日本国籍の子どもが増加しています。つまり、国籍を問わず国内では、日本語がわからない住民が増えているのです。
 「情報をデータ化する」ということは、多言語での対応が可能となります。これにより、日本語がわからない住民が「わかる言語」で情報を得ることができるようになりますので、多様な背景を持つ家族のサポートに繋がります。特に、誰もが簡単に登録できることは、仕事などで国境を越えて移動する家族とその子どものケアも実現できるでしょう。

小島 祥美

小島 祥美

愛知淑徳大学 准教授

母子手帳はミラクルです!

 2009年7月に大阪大学で、日本政府から第1回野口英世アフリカ賞を受賞したミリアム・ウェレ博士に国際シンポジウムの基調講演をお願いしました。その時はじめて日本の母子手帳を見た彼女は「そのときの感動は忘れられない。母子手帳はミラクルです。」と絶賛しました。母と子どもの健康を守る人びとの活動や思いをつなぐことのできる手帳のすばらしさを教えてくれました。
 私たちこそ60年以上も母子手帳を使い続けてきたために、あまりにも当たり前になって、そのすばらしい価値を忘れかけていたのかもしれない。先人たちが築いた過去の遺産を受け継ぐだけでなく、未来を担う子どもたちへの贈りものとして新しい時代にふさわしい母子手帳を創っていきたい。

中村 安秀

中村 安秀

大阪大学大学院 教授

母子健康手帳データ化推進協議会の設立にあたって

 母子健康手帳は、1948年に母子手帳として日本で初めて発行され、妊婦健診や子どもの出生記録、発育記録、予防接種記録など、一生大事にしておくべき母から子どもへの贈り物であり、母子の絆をつなぐ大切なものです。
 これらの貴重な情報を有する母子健康手帳をデータ化し、成長に合わせたライフステージにおいて活用することは、切れ目のない子どものケアの実現が可能となることに加え、一生涯を通じた健康・医療に役立つものです。
 本協議会が、次世代の母子健康手帳データの利活用方法やデータ化等の研究・検討を通じて、安心して暮らせる社会づくりに貢献することを期待するとともに、子どもの育ちを積極的に支援していきます。

伊原 和夫

伊原 和夫

一般財団法人日本教育支援機構 理事長

メディアとしての母子健康手帳

 自分の子どものことはさておき、私が母子健康手帳にかかわったのはJICAのインドネシア母子健康手帳プロジェクトに広報教育担当の短期専門家として派遣された時である。もうずいぶんと昔の話であるが、そのプロジェクトは中村安秀先生が国内委員長で、プロジェクトサイトはスマトラとかスラウェシとかで、首都からかなり離れたところだった記憶がある。
 その時に母子健康手帳とは何なのだろうと考えた。私はそれまで教育メディアの研究を教育工学や視聴覚教育の文脈で行っていたこともあり、母子健康手帳は「メディア」の一つであると考えた。メディアであるからには発信者から受信者に情報が伝達されるのである。ところが母子健康手帳がメディアとして特徴的なことはこの情報の伝達が双方向である事と時間の経過に従って情報が重層化し、豊かになってくることである。つまり、情報の送り手と受け手が互恵的な関係を形成することと、メディア自身が時間の経過、それもかなり長い時間の経過を前提としていること、あるいは時間の経過を内に含んだメディアだということであった。
 マクルーハンのメディア論では、メディアを冷たいメディア(映画、テレビなど)と熱いメディア(電話など)に分けている。つまりそのメディアを送り手と受け手の両者が参加するメディアが熱いメディアと言うわけである。熱いメディアとしての母子健康手帳は、送り手と受け手が相互に参加してメッセージそのものを形成する力がある。メディア自身がメッセージ性を持っているというのがマクルーハンの定義だが、母子手帳というメディアは、その機能自身が子どもを見守る母と医療関係者の思いを形にしているのではないか。
 こうした母子手帳のメディアとしての特性は紙媒体から電子媒体になっても変わるものではなく、より一層その機能を熱くするのではないかと考えている。

内海 成治

内海 成治

大阪大学名誉教授、京都女子大学 教授、京都教育大学大学院 教授

テキスト

 ブルネイへ行ったのはいつだっけ?パスポートを開いて探せば、懐かしい場面を思い起こせます。でも、年令が進み物忘れが激しくなると、以前のパスポートの時のことで、もし、写真や記録も見つからなかったら、その年月を思い出すのは至難の業です。ましてや、生まれた頃のことは、写真や両親が残してくれた記録、母子手帳が災害などで失われてしまうと、ほとんど分からないのではないでしょうか?記録をどのように残しておくかは、懐かしく思い起こすためのみならず、その貴重な内容を後で活かすためにも重要です。個人に即して情報をどのように守り、役立てるのか?母子手帳をベースに、保健、医療、保育、教育など多くの機関を巻込み、現場でおこなう支援の充実を目標に関係者が集う今回の試みに期待すると共に、少しでも役立てればと思っております。

前迫 孝憲

前迫 孝憲

大阪大学大学院 名誉教授、
一般社団法人教育システム情報学会 会長

テキスト

 私は、保健師と看護師の資格をもつ看護職ですが、医療現場の問題点を解決するために、情報科学を学び、今は大学で教鞭をとっております。職業柄、母子健康手帳への記載を勧める立場にありましたし、子ども達が小さいころには模範となるべく、一生懸命記録をしたことを覚えています。母子健康手帳には乳幼児期の子育てに必要な内容がたくさん盛り込まれていますので、お母様方にはぜひ活用をしていただきたいと思っています。子どもの健やかな成長を支援するために、データをわかりやすく、継続的に共有,活用できるようにすることが必要です。このICTが発達した時代において、母子健康手帳データ化推進協議会の役割は重要であると考えています。

真嶋 由貴恵

真嶋 由貴恵

大阪府立大学 教授

テキスト

 特別支援教育が学校基本法に位置づけられてから約7年、学校現場では学習面や行動面に困難を抱える子どもたちへの支援や様々な取組みが行われています。特別支援コーディネーターの配置や、個別の指導計画はその一環と言えます。しかし、これらは学校内での取組みが多く乳幼児から学校卒業まで受け継がれることが少ないのが現状です。
 母子健康手帳とともに個別の支援計画を見据えデータ化することはサポートの可能性を広げます。 家庭、学校、医療、福祉機関が連携し情報を共有化することで、障害への早い段階での気づきとなり、子どもへの対応に悩む保護者の相談や支援にも繋がります。また、乳児の鳴き声や特徴的な行動などデジタル技術(音声・動画)を利用することで、文字から生じる誤解をなくし適切な支援に繋がると思います。

笹田 能美

笹田 能美

先進的教育情報環境整備推進協議会
理事兼主席研究員

テキスト

 子どもたちは、キラキラとした笑顔と命を輝かせ、園生活を楽しんでいます。
 子どもたちが笑顔で過ごしていると、その周りは自然と笑顔になり、子どもたちが命を輝かせていると、元気や希望を得ることができます。
 小学校就学と共に、子どもたちの所属は、保育園から小学校へと移っていきますが、母子手帳がデーター化され、情報が共有できるようになると、子どもたちの所属は1箇所ではなく、卒園後も見守りを継続することができます。
卒園して数年経つと、保育園との距離間を感じることもあるでしょうが、母子手帳というツールでつながっているのです。

五十嵐 宏枝

五十嵐 宏枝

久宝まぶね保育園 園長

テキスト

 我子の『母子手帳』はほとんど活用しないまま臍の緒といっしょに箪笥の肥やしになってしまいました。その当時は、“妊婦と胎児と出産時の状況を記録する手帳"という認識ぐらいでした。
 時は移って、今のほうが出産後の健診の様子や予防接種の記録等にも役立っているようですが、もっと今の時代らしく進化する形が〝母子健康手帳データ化〟だと思います。
 生活に必要な横の連携と、子どもの成長に促した成人までの切れ目のない支援のために養護・保育・保健・医療・教育・自治体・各種専門機関等が協力して、一人ひとりの子どもを大切に見守る社会づくりが望まれます。それを大きく前進させる具体的な繋がり合いがこの取り組みの推進だと感じます。

阿瀬 みな子

阿瀬 みな子

旭丘まぶね保育園 園長

テキスト

 過去にホームレスの見守りの為、夜回り中、天王寺駅の歩道橋の柱の下で、男の人が亡くなっているのに遭遇したことがあった。誕生の時は、多くの人に見守られ、祝福されたであろうに、こんな喧噪の中で誰からも気づかれることなく亡くなっていることに大きな衝撃と悲しみを受けた。ホームレスの人たちから聞こえてくるのは、自分たちが必要とされず、独りぼっちだという悲しみである。不登校、虐待、精神的な疾患、DV等、人間関係の希薄さ、命の大切さが失われようとしている今日、福祉従事者として無力感を感じていた。そんな中で、母子手帳が非行に走った子どもの生き方を変えたとの報告は感動だった。母子手帳の記録から見える「あなたは私と一緒に生きてきたのよ。一人ぼっちじゃないよ」は病める多くの人にとって福音となるように思う。

阿瀬 修

阿瀬 修

社会福祉法人 日本コイノニア福祉会
理事

テキスト

 近年になって「小1プロブレム」という言葉が叫ばれ、幼児教育のあり方や家庭教育のあり方、また、小学校の指導のあり方などが原因なのではと、種々議論がなされてきました。しかしながら、法的な規制の壁があり、小学校が必要とする「情報」は幼稚園や保育所から小学校へ、スムーズな接続ができていないという課題にはあまり触れられてはいません。そのため、小学校では毎年、調査票を保護者の方に提出して頂くという状況が続いています。こうした状況を改善するためにも就学後も活用できる「母子手帳」の必要性を感じています。
 小学校の先生と幼稚園や保育所の先生とがコミュニケーションを深めたりする活動を行うと共に、情報の共有を通して保護者と共に、理解しあい、解決の道を模索していく必要があると考えています。

富永 直也

富永 直也

前京都教育大学 連合教職大学院、
京都府八幡市立有都小学校 教頭

親と先生が子どもと向き合う応援団

 息子が中3の夏休み、家庭科の宿題は「15歳のアルバム作成」でした。担当の先生からは「家族と話し合ってください。母子手帳は参考になりますよ」との説明。
 妻がこんなことを綴っていました。つかまり立ちした時の様子や、初めて給食を食べた日の感想などです。読みながら息子が楽しそうに宿題をしていました。
 道徳が教科化されます。学校ではけんかやトラブルもあるでしょう。それを乗り越え、やり遂げていく姿に子どもの成長があります。簡単には育たないです。人との関わりや温もり、優しさは時間をかけてゆっくりと育てていくものだと思っています。
 母子健康手帳は教科書だと思います。母子健康手帳は、親と先生が子どもと向き合える応援団です。

石橋 正敏

石橋 正敏

八尾市魅力創造戦略アドバイザー
・放送作家

親と先生が子どもと向き合う応援団

 子どもは時間的な経過に伴って成長します。妊娠期から出産⇒新生児期⇒乳児期⇒幼児期⇒学童期といった成長に伴い、関係してくる組織が診療所、病院、保健センター、保育園、学校などと変わり、また職種も産科医、助産師、小児科医、保健師、看護師、保育士、教師などと変わっていきます。また、子どもや家族の状況によってはさらに多くの組織・職種が関わってきます。きめ細かいサービスが提供されるためには、成長に伴う時間の分断や縦割り行政などによる組織・職種間のケアの分断を避け、時間的組織的な連携をスムーズに行う継続ケアが実現されることが期待されています。そのために母子健康手帳は大きな役割を持つことになります。

垣本 和宏

垣本 和宏

厚生労働省那覇検疫所 所長

親と先生が子どもと向き合う応援団

 医療情報・患者情報のクラウド化の必要性が叫ばれて、早幾歳が経過しました。今後増大する、医療費に備えるために、市民に対する医療サービスの向上と、コスト効率化は急務です。現状を振り返れば、企業の論理が先行し、市民の医療情報が病院間で共有されておらず、カルテのシステムに互換性が乏しい現在、その提供不足により医療難民が生じています。緊急時の医療の対応にも、医療情報の共有化は必要です。
 そのためにも、まず人生の医療情報のクラウド化を母子手帳から始めることが重要です。そして、子どもの成長を見守る母子健康手帳のクラウド化の活動が成人に及べば非効率な重複医療が無くなり、病気を予防出来ます。どの病院に行っても、児童や成人の病歴・治療歴に沿った適切な診療・治療が受けられます。さぁ、始めましょう医療情報の共有化を!人生の医療情報のクラウド化の始まりは母子手帳から。

巽 昭夫

巽 昭夫

一般社団法人生産技術振興会 執行理事

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